障害個性論の再検討
山岸倫子 (東京都立大学大学院)
抄録
本稿は,障害個性論について,検討したものである.現行の個性概念は,差異に 対する社会的な承認が行われたものという,非常に限定的な使用のされ方であるが,その承認の方法も称揚と許容に分けることができる.称揚の対象としての個性は,負の差異を持つとされてきた人が,独自性を有する正の結果を生み出し,かつ負の差異と因果関係を有すると推測される場合に,使用される.また,許容の対象としての個性は,社会的に「重大な負」とされた結果を導かない差異をさす.障害は,現在,負とみなされている.その障害ゆえに「独自性ある正の結果」を導く場合,それは個性と称揚されることがある.また,障害という差異が社会的に「重大な負」を導くかいなかは,社会環境等に大きく規定されるため,障害はいついかなる時も「重大な負」の結果を導く負の差異ではない.また,「重大な負」の結果が含むものも社会によって異なる.よって,障害は許容の対象としての個性といえる.