ロバート・ピンカーの福祉多元主義論
香川重遠 (東京福祉専門学校)
抄録
本稿では,ピンカーの福祉多元主義論をつまびらかにし,若干の考察を行った.ピンカーの福祉多元主義論においては,公的部門,私的部門,ボランタリー部門,企業福祉,インフォーマル部門によって社会サービスは供給される.しかし,それは制度モデルにも残余モデルにも明確には該当しない.福祉多元主義は複数のイデオロギーからなるものであり,それらが互いを補完しあうことによって,現実の多様な問題への柔軟な対応が可能とする.そして,福祉多元主義こそが,社会サービスの利用者の市民権の保障をもっとも可能とするモデルなのである.ピンカーの福祉多元主義論の意義は以下の点にあると考えられる.第1に福祉多元主義の進むべき方向性を示唆していること,第2に単一のイデオロギーの脆弱さを現実主義的な観点から指摘していること,第3に福祉多元主義と市民権の関係性を理論的に説明していること,である.