準市場理論の理論的背景と変遷
根本輝 (法政大学大学院人間社会研究科人間福祉専攻博士後期課程)
抄録
本研究の目的は準市場理論の理論的背景を示し,新制度派経済学との関係性と変遷を明らかにすることである.そこで,準市場理論と取引コスト理論との関係性に着目し,「組織の失敗の枠組」から基本的条件に関わる理論枠組みを検討した.まず取引コスト理論を詳述し,そこから準市場理論の 4 つ評価基準「効率性」「応答性」「選択性」「公平性」について両理論の評価への差異を検討した.また「組織の失敗の枠組」から,準市場理論の 5 つの成功条件「市場構造」「情報の非対称性」「不確実性と取引コスト」「動機付け」「クリームスキミングの防止」への理論展開を検討した.その結果,ル・グランらの準市場理論の独創性は,取引コスト理論へ公共領域の評価基準となる公平性の導入であったと考えられる.また成功条件においては「組織の失敗の枠組」における「雰囲気」から「動機付け」への理論的展開が理論の独創性であると考察された.