戦間期イギリスの特別地域における公私の協働
香川重遠 (上智大学大学院)
抄録
1934年の特別地域法の制定以来,特別地域基金からの補助金をもとに,イングランドとウェールズの特別地域において,ボランタリー団体がさまざまな社会サービスを供給していた.こうした公私の協働は,「新たな博愛」と称されるものであり,後の福祉国家において展開された「公私関係の小規模な試演」であった.そこには,後の公私の協働を方向付けるいくつかの動きがあった.第1に,当時において,政府はポランタリー団体を協働の相手となりうる存在とみなしていた.第2に,特別地域委員は,ボランタリー団体に対して金銭的な支援は行うものの,活動には干渉はしないという姿勢をとっていた.
第3に,特別地域におけるボランタリー団体による社会サービスは,政府によるそれを土台に展開されたものだった.当時において,イギリスでは,公私の協働のもとに,重層的かつ多元的な社会サービスの供給体制が実現されていた.