聖バルナバミッションにみるハンセン病者支援の福祉的意義
新田さやか (立教大学大学院)
抄録
本稿は1916年から1941年まで存在したハンセン病者への救療事業「聖バルナバミッション」のハンセン病者の生活における自立と自律が尊重されていたと評価される実践について考察する.同事業はコンウォール・リーによって群馬県吾妻郡草津町のハンセン病者が集住していた「湯之沢部落」で生活に困窮しているハンセン病者たちの支援事業として展開された.その運営においては病者各自が主体的に関わり,かれらによって様々な文化活動も行われていた.湯之沢部落は草津町における一つの行政区として位置づけられており,ハンセン病者にとって療養生活の場あるいは定住地であると同時に社会・経済・政治的諸活動が営まれる場でもあった.同部落ではハンセン病治療のため全国から訪れる病者を受け入れることで温泉地における滞在型療養による消費経済が成立していた.本稿ではこうした特徴をもつ湯之沢部落の存在が聖バルナバミッションの実践に大きく影響を与え,ハンセン病者の生活における自立と自律を尊重する実践につながったと捉える.そしてハンセン病者が社会的に周縁化されていく時代状況の下,かれらが人間らしく生きる権利が保障され,自己決定に関わる主体であることが尊重された点を同事業の福祉的意義として捉える.