日本における福祉国家の形成と医療の社会化
結城康博 (法政大学大学院)
抄録
医療の進歩で,かつて人を死に至らしめていた多くの病は克服されるようになった.そして,病気が克服されることでどこかに障害をのこし,それらを伴いながら長い老後生活を過ごすケースが多く見られる.そのような人々には,医療よりも失った機能を補うための生活支援が必要となっている.しかし,福祉施設等の供給が未整備のため社会的入院が是正されず,福祉の機能を医療が代替している構図が長年継続されてきた.このことが国民医療費の高騰を招き,医療保険システムを危機に陥らせることになった.この論文の目的は,日本における福祉国家の形成と医療の社会化について考察することである.そして,長い間,医療と福祉の機能分化が進まない現状を述べ,その背景には福祉国家形成過程における医療の社会化によって福祉が医療分野に依存してきたことを指摘する.