日本社会福祉学会関東部会

日本における「ケア」に関する現金等給付制度(Payment for care)の動向と分析視点


 田中恵美子 (日本女子大学大学院)


 抄録

従来、ケア保障はサービスの「現物給付」によって行なわれるというのが一般的な理解であったが、近年欧米諸国では、ケアに関する現金等給付制度の存在に注目が集まっている。本稿では、これらの制度の動向と議論を整理し、それらが注目を集めた背景を考察し、議論の新たな展開について検討を行い、今後のわが国の現状とその議論を分析するに際し、注目すべき点について述べた。

 この結果、これらの制度は、時に制度該当者間の利害関係の衝突を招いており、特にケアの対象者と提供者の間には、対立構造があることが示された。さらに、制度の導入によって、従来の労働、家族、ボランティア、手当などにみられた「社会通念」や原則が変更を余儀なくされ、それらの新しい位置付けは今だ流動的であるといえる。

 ケアに関する現金等給付制度に関する議論の高まりの背景としては、①福祉ミックスの進展、②女性の権利獲得を目指したケア保障制度の模索及び③ケアの対象者、特に障害者による人権擁護と公民権獲得を目指した運動があげられる。

 今後、日本の制度の現状及び議論を分析するにあたって、ケアの有償化が進展する中での、ケアの位置付け、給付のあり方及びそれらと権利保障やシテイズンシップとの関係に注目していくことが必要であろう。

Key Words:ケアに関する現金等給付制度,ケアの対象者,ケアの提供者

社会福祉学評論(3):27-43、2003


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