生活の「社会化」論の検討~社会福祉の対象把握における一視点~
鈴木忠義 (東京都立大学大学院)
抄録
日本における高度経済成長期(1960年代)以降の貧困・生活問題の研究において、生活の「社会化」についての分析がなされている。本研究は、生活の「社会化」の下での、社会福祉の対象とする生活問題の把握を目的としている。
本稿において、筆者は、人々の労働過程に着目している。そして、労働の概念について、労働市場を媒介とする労働と労働市場を媒介としない労働の二つの意味が含まれるものとしてとらえている。このとらえ方は、特に後者の意味での労働に、社会福祉の目標の一つとされる「社会参加」のための活動が含まれているという、筆者の問題認識に基づいている。
生活の「社会化」には、(1)企業への労働者の社会的結合、(2)家庭生活における市場商品への依存、(3)労働力再生産費用の企業から政府への転嫁、の三つの側面がある。そこで、筆者は、この各側面において、二つの意味での労働に際しての労働力消費・再生産過程がどういった状況に置かれるのかについて考察を行っている。
考察の結果、労働市場を媒介としない労働力の消費と再生産の過程は、その費用が、最終的には賃労働者に支払われる労賃によって負担されるため、抑制される傾向にあることが明らかとなった。したがって、結論として、労働市場を媒介としない労働の過程は、労働力商品価格の総額からまかなわれる範囲内でのみ達成されることが示された。