市民福祉事業と自治体行政に関する一考察
亀田尚 (東洋大学大学院)
抄録
従来、社会福祉の分野で「公的責任」といえば、それは国家責任を指していた。しかし、80年代・90年代を経過して時代は大きく変化をとげ、今日では地方の時代と言われるように、市町村を中心にして地方自治体の役割が重視されるようになった。
一方で、介護保険の導入に伴い、営利企業を含む多様な民間団体が、社会福祉の経営主体に参入する時代が到来している。公設公営の施設やサービスは縮小され、ほとんどの福祉サービスを民間が担う方向へと着実に推移している。このような状況下で、新たな地域福祉の課題に応えられるような「公的責任」の担い手に、地方自治体は現実になり得ているのであろうか。
本稿では、民間主導となりつつある今後の地域福祉の現場で、地方自治体の果たすべき役割・責任を明らかにし、新たな公私の役割分担の課題を検討しようとするものである。特に、市民(住民)による自治の動きに着目し、参加型の市民福祉事業の現状と自治体行政との関係を軸に考察を試みる。