「事実上の現物給付」とニーズ充足―介護保険と医療保険の対比からみる制度化の論点―
寺田 誠 (上智社会福祉専門学校)
抄録
介護保険制度が採用してきた「事実上の現物給付」とニーズのつながり方は,必ずしも従来の枠組みでは説明しきれない.では,この給付方法とニーズの結びつきをどう考えたらよいか.「事実上の現物給付」は,利用者の権利を具体化していくプロセスの中で代理受領が重要な役割を担うことによって,利用者が必要とする介護サービスの利用につなげている.代理受領は,費用の問題を清算していくことができる立場を介護サービス事業者に付与する(対価の側面)だけではなく,介護サービスの提供を要求していくことができるような立場を利用者のために作り出していく役割(ニーズ充足の側面)も果たしているのである.ただし,この給付方法から生み出される介護サービスには部分的にしかニーズを捉えられないという限界があることも見逃すべきではない.このような制度化をめぐる論点が生じているならば,社会福祉の側からも応答していくことが求められるであろう.