ティトマス贈与関係論の再検討 ―その現代的意義を考える―
圷 洋一 (日本女子大学人間社会学部社会福祉学科)
抄録
本研究の目的はR. M.ティトマス(Richard Morris Titmuss, 1907–1973)の贈与関係論
を振り返り,今日的状況のもとでいかなる再評価がなしうるのかを示し,その現代的意義
を考察することにある.こうした研究目的を立てた理由は,端的にいえば,社会福祉との
関わりで贈与の意義を掘り下げていくにあたっては,まずティトマスの古典的議論に立ち
返り,議論の足場を固めることが欠かせないと考えたためである.
これまでティトマスの議論は,三浦文夫を始めとする福祉政策研究者たちの間で積極的
な受容がなされてきた(三浦 1995; 京極ら1988).未邦訳の『贈与関係』については岡田
藤太郎によって紹介がなされている(岡田 1995).このティトマス晩年の主著は,贈与論
の本家である人類学分野の研究でも言及がなされている(伊藤 2011: 173; 山崎 2015:
24).その知的影響力はいまなお衰えていない(坂田 2014: 273).1997 年にはティトマ
スの娘アン・オークレーらの編集で新版が出版されてもいる(Oakley & Ashton 1997).
だが,『贈与関係』にはすでに根本的な限界が指摘されていることも確かである(Pinker
1971, 1977; Reisman 2001).以下ではこれら先行する議論に学びながら,ティトマス贈
与関係論がもつ現代的な意義を探っていく.