小学生が犠牲となった心中による虐待死の検証─自治体報告書から地域の危機管理を展望する─
西岡弥生 (聖隷クリストファー大学大学院 社会福祉学研究科 博士後期課程)
石川瞭子 (聖隷クリストファー大学大学院 社会福祉学研究科)
抄録
本研究は,小学生が犠牲となった心中による虐待死の背景要因を分析し,地域の危機管理を展望することを目的とする.具体的には,公開されている自治体報告書における心中による子ども虐待死4事例(小学生が死亡)を対象とし,家族の生活状況を検討した.まず,4事例の地域の状況を国勢調査の統計表を基に分析し,次に,家族危機の形成のプロセスついて,二重ABC-Xモデルを援用し自治体報告書・新聞等報道記事・判例を基に分析した.分析の結果,4事例は,家族生活において複数の喪失体験があることが共通に見出された.死別・失業・離婚等の喪失体験の後,家族内資源の減少と家族機能の低下が進み,親の精神の不調が相まって事件発生に至ったことが浮き彫りになった.心中による虐待死を防止するには,地域の危機管理の一環として学校が福祉の窓口となり,喪失を重ねる家族の危機をいち早く察知し,適切な社会資源を投入することが求められる.